コラム
【相続税の税務調査事例】相続人からの借入金が全額債務控除として認められたケース
事例紹介税務調査相続税
勤務税理士時代に、国税局による相続税の税務調査を担当したことがあります。
今回ご紹介するのは、被相続人が生前に相続人から借り入れていた金銭について、国税局から当初は債務控除を認めないとの見解が示されたものの、最終的にその全額が債務控除として認められた事例です。
この借入金を、被相続人の債務として相続財産の価額から控除できるかが、税務調査における大きな争点の一つとなりました。債務控除が否認されれば相続税の課税価格が増えるため、納付税額にも大きな影響が生じます。
※守秘義務に配慮し、個人を特定できないよう、金額その他の事情を一部抽象化しています。
この事例の要点
- 国税局は当初、家族間借入金の債務控除を認めないとの見解を示した
- 資金移動や契約内容、裁決事例などを整理して説明した
- 最終的に借入金の全額について債務控除が認められた
相続人から被相続人への貸付金が争点に
今回の借入金は、金融機関からの借入れではなく、相続人から被相続人に対して貸し付けられた多額の金銭でした。
相続税の申告では、相続開始時に被相続人が負担していた一定の債務を、相続財産の価額から控除できます。しかし、家族間で行われた金銭の貸し借りについては、本当に返済義務のある借入金だったのか、それとも実質的には贈与や家族間の資金移動だったのかを確認されることがあります。
今回も、相続人から被相続人への貸付金が、相続開始時に存在し、被相続人が負担すべき債務であったかどうかが問題となりました。
家族間の借入金は、存在するだけでは足りない
相続人側が「貸したお金です」と説明するだけで、債務控除が認められるわけではありません。
家族間の借入金は、第三者からの借入れと比べて、契約内容や返済義務の実態を慎重に確認されることがあります。そのため、形式だけでなく、実際の資金移動や返済状況を含めて事実関係を整えて慎重に判断する必要があります。
相続税の税務調査で国税局が確認したポイント
税務調査で重要なのは、調査官の指摘に対して、すぐに反論することではありません。
まず、国税局がどの事実に疑問を持ち、なぜ債務控除を認めないと考えているのかを確認する必要があります。
同じ「債務控除の否認」であっても、問題となっている理由は事案によって異なります。
たとえば、
・契約書の不存在
・被相続人の資産状況からみて、借入の必要性に疑問がある
・借入金額と通帳の不一致
・契約どおりの返済が行われていない
など、さまざまな点が考えられます。
今回の調査でも、国税局側の疑問点を一つずつ確認し、それに対応する事実や資料を整理しました。
信頼関係と正確な対話が、税務調査の土台になる
税務調査への対応で私が重視しているのは、税理士と納税者、税理士と調査官との間で、正確な情報に基づく対話ができる関係を築くことです。
今回、私は税務調査の途中から関与しました。そのため、まずは納税者からこれまでの経緯を詳しく聞き取り、申告内容や関係資料を確認し、事実関係を正確に把握する必要がありました。
納税者との信頼関係が築かれると、都合の良い事情だけでなく、不利になり得る事情も含めて率直に話していただきやすくなります。これは、調査官に対して正確な説明を行うために欠かせません。
一方、調査官に対しても、その役割を尊重し、質問の趣旨を確認したうえで、必要な資料と説明を誠実に提供します。
このような対応を続けることで、調査官が確認したい点と、納税者側が説明すべき点が明確になります。その結果、不要な行き違いを防ぎ、調査が円滑に進みやすくなります。
納税者の認識に誤りがある場合には、その原因となった税法や関連法令の考え方を説明します。他方、調査官の指摘に対して説明すべき事実や資料がある場合には、根拠を整理して伝えます。
税務調査は、親しさによって結論が決まるものではありません。事実関係と法令の適用について、双方の認識を一つずつ確認する手続です。だからこそ、冷静で誠実な対話が重要だと考えています。
裁決事例などを調べて判断基準を確認
国税局から指摘を受けた後、同様の問題について判断された裁判例や、国税不服審判所が公表している裁決事例を調べました。
国税不服審判所は、税務署長や国税局長などが行った課税処分に納得できない納税者が、審査請求を行うための機関です。過去の裁決事例は、課税上どのような事実や資料が重視されるのかを検討する際の参考になります。
税務調査への対応では、納税者側に有利な事情だけを取り上げても、説得力のある説明にはなりません。調査官が疑問を持っている点に対して、客観的な資料と整合する形で説明することが必要です。そこで、貸付金に対する法的な位置づけについて、裁決事例を含む関係資料を調査官に提示して、今回の事実関係との共通点や相違点を説明しました。
追加の確認事項が生じた場合には、その都度必要な事実や資料を確認し、調査官とのやり取りを重ねました。
最終的に借入金の全額について債務控除が認められた
国税局への説明を重ねた結果、当初は否認するとの見解が示されていた借入金について、最終的に相続税申告上の債務控除が認められました。
税務調査では、調査官から指摘された内容が、そのまま最終的な結論になるとは限りません。一方で、納税者側が反論すれば、必ず認められるというものでもありません。事実関係を確認し、客観的な資料を整理したうえで、法令や過去の判断事例に照らして説明することが重要です。
今回の事例では、国税局への説明を重ねた結果、当初は否認するとの見解が示されていた借入金について、最終的に全額が相続税申告上の債務控除の対象となりました。
税務調査では、認める部分と説明すべき部分を分ける
税務調査では、複数の指摘を同時に受けることがあります。その場合、すべての指摘に反論することが適切とは限りません。
申告内容に誤りがある部分については修正し、事実や資料に基づいて説明できる部分については、納税者側の見解を伝える必要があります。
大切なのは、
・調査官が何を問題としているか
・納税者側の認識はどうなっているか
・客観的な資料が残っているか
・法令や過去の判断事例と整合しているか
などを、争点ごとに整理することです。
税務調査を受けると、納税者の方は「すべて否認されるのではないか」「調査官の言うとおりにしなければならないのではないか」と不安になることがあります。また、予期していなかった追徴税額を示され、反発や不安から感情的な言葉を発してしまい、調査官と冷静に対話できなくなることもあります。
調査官と冷静な対話を保ち、指摘内容を正確に把握して誠実に対応することで、当初の指摘とは異なる結論になる場合もあります。
※税務調査の結果は、個別の事実関係や確認資料によって異なります。同様の事案で同じ結果になることを保証するものではありません。
※本記事は、家族間での金銭の貸付けを推奨するものではありません。
今回の調査対応を、次の相続への備えにもつなげる
今回の税務調査では、借入金の債務控除とは別に、相続税の特例についても確認が必要となりました。
当時の状況では、その特例を適用するための要件を満たしておらず、今回の相続では適用が認められませんでした。
ただし、今回適用できなかったからといって、次の相続でも必ず適用できないわけではありません。制度の要件を事前に理解し、必要な準備を継続することで、次の相続では特例を適用できる可能性があります。そこで、特例を適用するために必要な要件、適用できなくなる行為や状況、生前に整えておくべき事項、継続して満たす必要がある要件などを、資料を用いて詳しく説明しました。
税務調査への対応は、目の前の指摘を処理するだけではありません。過去の申告で何が問題となったのかを確認し、その経験を次の相続や申告に生かすことも重要です。
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本コラム内の記事は全て投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。
また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。
本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上、 十分に内容を検討の上実行してください。
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