【個人事業主の税務調査事例】資料がほぼない7年分の調査に途中から対応したケース
事例紹介税務調査個人事業
個人事業主の方から、税務調査についてご相談をいただいた事例です。
私のHPをご覧になり、ご連絡くださったそうです。
ご相談者(以下「納税者」といいます。)は、かなりお怒りのご様子でした。
「もう決定するので、これだけ納税しろと言われている」とお聞きした金額は、数千万円だったと記憶しています。
※守秘義務に配慮し、個人を特定できないよう、金額その他の事情を一部抽象化しています。
前提事実
1.1年以上にわたり、ご本人が税務署とのやり取りをしていた
2.調査対象は7年分
3.当初、所得税は白色申告(うち2年分は無申告)、消費税は免税事業者としていた
4.当初申告の根拠となる資料がほとんど残っていなかった
5.税務調査官とは明確に対立していた
6.すでに税務署が作成した書類に署名していた
7.数千万円規模の追徴税額を示されていた
8.推計による更正・決定を行うと言われ、調査終了間近の段階だった
何人もの税理士に断られた後のご相談
ご本人の主張が資料等の根拠に基づいておらず、調査官への怒りが強く、調査官の説明を聞くことなく捲し立ててしまうような状況でした。
税務署の対応としては、推計課税による更正・決定を行う(税務署があなたの税額は〇〇円ですと決めること)と言われた納税者が、いよいよ切迫し、税理士を探し始めたそうです。
複数の税理士へ相談されたものの、引受けが難しいと言われていたそうです。
たまたま、HP経由でお問合せ頂いた私も、一度お断りをしましたが、最終的には、お引受けすることになりました。
初めにしたこと
契約後すぐに税務代理権限証書を提出し、税務調査官に会う予約をしました。もちろん、納税者も同席します。
面談までに、当初申告書や調査官から渡された資料等を拝見し、ご本人の考えをお聞きしました。
初めは、この1年間の覚めやらぬ怒りのお気持ちを、冷静にお聞きしました。ただ、事実もありますので、税務に関する法律や解釈、税務調査官の立場をご説明し、納税者側にも、今後改めるべき点があることをお伝えしました。
面談で行うこと、気を付けることをお伝えしたところ、きちんと実行してくださいました。
これにより、調査官との関係はマシになりました。
税務署から出たところで「俺に対する態度と全然違う!」とまたお怒りモードだったのをお鎮めし、「それは、あなたにとってメリットなんですよ。」とお伝えしました。
多くの税理士から断られていたため、納税者は私の話には耳を傾けてくださいました。
なお、この段階での調査官側の姿勢は、更正・決定を取りやめるつもりはなかったように思います。
ただ、私は、
「推計課税の根拠となる資料をいただけますか?納税者はご覧の通り納得されていないので、私の方でも確認して、必要な説明をしたい。」
といった趣旨をお伝えしたように記憶しています。
論点1 資料が殆どない
この案件の特徴は、資料がほぼ無いことでした。
売上の請求書や納品書もない、外注費や材料費の請求書もありません。もちろん、その他の経費の領収書やレシート等もありません。これでは、実額で所得を計算することはできません。白色申告者については、このような場合、推計課税が行われることがあります。
この点は、納税者に説明をしました。
また、この税務調査を行っている年も確定申告があります。
その確定申告については、絶対に適正な申告をすることを条件に受託しました。
そのため、調査対応と並行して、今後同じことにならないよう、必要な資料や考え方、売上や経費の範囲などについても、都度説明し、確認をしました。
「若いやつらに、ごはんをご馳走したり、色々支払ってるんですよ。」
と仰られ「そうだろうな」と思いますし、理解もできます。しかし、証憑が無ければ、どうやって経費にすれば良いのでしょう。
このタイミングで税理士が出来ることは、お仕事上の打合せ飲食はレシートを保存してくださいね等とアドバイスすることで、今後の不利益を回避するお手伝いをすることです。
論点2 いったい収入金額はいくらか?
当初申告の状況
・収入金額は毎年1,000万円以下
・2年分は、所得税無申告
・消費税は免税事業者
・7年間の収入総額は、約3,500万円
関与時の調査官の指摘
・すべての年分で収入金額は1,000万円超
・各年分について基準期間等を確認した結果、いずれも消費税課税事業者(原則課税)
・7年間の収入総額は、約4億6,000万円
……だいぶ違いますね(笑)
最終的に合理的に見積もった金額
・7年間の収入総額は、約4億3,000万円
通帳や取引履歴、後から見つかった請求書等を一つずつ確認し、私自身も独自に資料を作成しました。
調査官の指摘と突合し、双方で確認した金額です。
約3,000万円減。割合にすると約6.5%減でした。
4億円を超える金額の中では小さく見えるかもしれませんが、3,000万円です(笑)
こうした一つ一つの積み重ねが、最終的な所得税や消費税、住民税や事業税、加算税等にも影響していきます。
論点3 原価はいくらなの?
正直、詳細を覚えていないので、記憶は曖昧です。
ただ、納税者の方が家じゅうを探して、ボロボロになった資料がわりと出てきたような記憶が薄っすらあります。それを基に、情報収集をしました。
納税者の方も、この頃になると協力的で、関係者に連絡して資料を取り寄せてくれていましたので、再発行などが出来た部分もあったのかもしれません。
とにかく、集めた資料等を基に確認を重ね、推計による金額よりも実態に近く、納税者もご納得されるところで整理することができました。
論点4 経費をどうするか?
これは、全く資料がありません。多少のレシートがあっても、推計課税の率の方が良いに決まってるレベルでした。
いよいよ終結も見えてきた頃、税務署に呼ばれましたので、納税者と訪問をしました。
上席の調査官から、これまでの申告や資料保存等について、納税者に対して厳しい注意がありました。その後、調査官から売上・原価・経費の推計をもとに、7年分の調査終結の提案がありました。
内容の説明を受けながら、訂正事項を確認していきます。…と…経費の段になり、目を丸くしました。
推計で使う率が・・・当初より納税者に有利なものに見直されてる!!
心の中で嬉しく思いながら、その場では何も言わず、修正をお願いした個所の確認と主張をして、税務署を後にしました。
経費へ適用する率の変更は、所得金額に与える影響は大きいです。
納税者の代わりに、心の中で大感謝しました。
関与後4か月での終結
諸々確認できたので、無事に更正されることもなく、修正申告書と期限後申告書を提出し、納税しました。
調査終了です。
税務代理権限証書を提出したのが7月上旬、終結が10月末でした。
私の関与開始後、約4か月です。
税務調査官も、2年が経過する前に終結させたかったということで、ほっとされていました。
税理士仲間からは、「三方よしのお仕事をしましたね」と言葉を掛けられたことを思い出すと、今でも心が温かくなります。
調査結果※7年分の総額
※金額は、当時の資料を基に端数を丸めて表示しています。
| 項目 | 調査前 | 調査後 |
|---|---|---|
| 収入金額 | 3,500万円 | 4億3,000万円 |
| 所得金額 | 1,500万円 | 7,600万円 |
| 増差所得金額 | ― | 6,100万円 |
| 所得税 | 30万円 | 1,200万円 |
| 消費税課税売上※ | 0円 | 4億円 |
| 消費税 | 0円 | 800万円 |
※「消費税課税売上0円」は、当時の税務署資料上の表記です。
当初は消費税の免税事業者としていたので、便宜的に0円とされていました。
総括
私が関与したことによって、最終的にどの程度税負担が減少したのか、正確な金額は分かりません。
ただ、当時の試算資料が残っていたので確認したところ、その時点の比較だけでも1,000万円以上の差があったようです。
その差額は、調査官との確認が進んだ段階の金額を基に試算しており、それ以前にも推計に用いる率などが変更されていましたので、最初にご相談いただいた時点から考えると、実際の差はもっと大きかったのだと思います。
売上や所得が変われば、所得税や消費税だけでなく、重加算税等、住民税や個人事業税にも影響します。
だからこそ、時間と手間がかかっても、一つ一つの数字を地道に確認していく必要があります。
ことのは税理士事務所の税務調査対応の特徴
弊所の特徴は、2つです。
1.税務調査に関する業務のパターン化をしない
つまり、「いかに早く処理して終結させるか」という視点は、いったん横に置いておくことにしています。
税理士自身がその場で対応していくため、細かい論点まで把握し、確認をして対応していくことが出来ます。
2.税務調査官と戦わず、確認作業をする
戦う必要はありません。
同じ税法を根拠に確認していくのですから、資料や事実をもとに、正しいであろう数字を決めていくことが税務調査だと考えています。
弊所では、それぞれの税務調査について、まず論点を整理し、それに合わせて必要な確認と資料を準備して、対応していきます。
税理士として、納税者が不必要な不利益を受けないよう、できる限り有利な結果につながることは、もちろん意識しています。
ただ、その方法は、調査官と戦うことではありません。
そして何より、私には「本当の数字は何なのかを解明したい」という好奇心があります。
それが、どちらか一方の主張をそのまま前提にするのではなく、資料を見て、話を聞いて、一つずつ事実を確認していく根気になっています。
納税者と調査官の認識や主張に相違がある場合、【どちらかが嘘をついているのではないか?】と、私は思いません。
過去のことですから、記憶も曖昧になりえます。
調査官も自分自身のことではありませんので、資料や納税者からのヒアリング、これまでの経験などをもとに調査していくわけですから、事実についての認識が食い違うこともあります。
ただ、がんばってきた納税者が、不当に不利益を被る必要はありません。
私は資料を調査したり、ヒアリングしたりしまして、いい塩梅の裏付けがとれれば、資料を作成したり、まとめたりして、調査官に説明するだけです。
(そういえば、子供の頃の夢は刑事さんで、2時間サスペンスは毎週見ていました。)
いい塩梅の根拠があれば、税務調査官は認めてくれる可能性はあります。別に戦わなくていいんです(笑)
私は少なくとも、税務調査を「闘い」だと思ったことはありません。
一緒に本当のところを探ろう、というスタンスで税務調査レスキューをしています。
同じような結果になるとは限りません
最後に、念のための注意事項です。
この記事をご覧になって、
「自分も税理士に依頼すれば、税額が大きく減るのではないか」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、税務調査は一件一件、事実関係も、残っている資料も、税務署から指摘されている内容も、税務調査官の対応も、全く異なります。
今回の事例も、税額を減らすことを目的として対応したわけではありません。契約時には、代わりに対応することしか約束していません。
資料を確認し、納税者から話を聞き、税務署が把握している内容とも照合しながら、「本当の数字はどこなのか」を一つずつ確認していった結果です。
確認した結果、税務署の指摘どおりになることも当然あります。
納税者の主張に十分な根拠がなく、認めてもらえないこともあります。
反対に、納税者の主張が認められることもあります。
また、資料がほとんど残っていない場合には、税理士が関与したからといって何でも立証できるわけではありません。
したがって、今回の事例と同じような税額の減少や結果をお約束することはできません。
ただ、
「もう税務署の話がかなり進んでしまった」
「税務署とのやり取りがうまくいかなくなった」
という段階でも、整理し直せることはあります。
お困りの場合には、できるだけ早めにご相談いただけると良いと思います。
すでに税務調査が始まっている方へ
税務調査の途中からでもご相談いただけます。
「税務署との話が噛み合わなくなった」「調査が長引いている」「更正すると言われた」など、ご自身での対応が難しくなっている場合も、まず現在の状況を整理するところから対応します。
弊所では、税理士本人が資料の確認から調査官とのやり取り、終結まで直接対応しています。
■免責
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また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。
本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談し、十分に内容を検討したうえで実行してください。
本情報の利用により損害が発生することがあっても、筆者及び当事務所は一切責任を負いかねますのでご了承ください。